座っているだけで絡まれた若い頃、
面倒くさい先輩たちがたくさんいましたね。 いまは僕がそのオヤジになっていて・・・ ゴールデン街って若い頃は「肝試し」。うわさはいっぱい聞いていたから、とにかく怖いところだという(笑)。 一番最初に行ったのは雑誌の編集者に連れられて。当時ラジオの構成作家だった方と3人で、内藤陳さんの『深夜プラス1』でした。 お店に入ったら常連の人から「知らない顔だな。好きな探偵小説は?」って聞かれて、僕は「下村湖人の『次郎物語』ですかね」って言ったら「お前、ふざけてんのか!」(笑)。 気がつくと「表に出ろ!」そんなことが日常茶飯事 当時からこの風貌でしょう。よく絡まれました。新参者はそれなりに気を使わないといけない。分かっていてもハズすんですよ。で、口論になって何度も「表に出ろ!」って。 殴られそうになったこともありました。ホント面倒くさい大人が多かった。自分も十分生意気でしたが。 独特の「カラミ地場」があるんじゃないですか?「お前、それは違うよ」ってまず否定から入るのが挨拶みたいな。 お店の人も愛想がいいわけじゃないし。それでも若い頃よく通っていたのは、反発しながらもどこかに憧れがあったのだと思います。 大人たちが朝までダラダラ飲みながら、侃々諤々議論したり喧嘩したり。いつもどこかで事件が起こっている匂いが街全体にプンプンしてましたもん。 僕らの少し上の世代は学生運動やってた人が多いでしょ。憧れもあっていろいうろ聞いてみたい。 で、そういう先輩たちと話していると最初はいいんですけど、調子に乗ってくると「お前は何も知らない」「情報だけで実体験がない」って、最後はコテンパンにやられるという。 57歳になってもお酒の味なんて分かりません・・・ 40代でちょっと体を壊してから、ゴールデン街ご無沙汰してたんです。最近またちょこちょこ行き出した。 そしたら自分より上の世代がほとんどいないんです。 面倒くさい人たちがいなくなったと喜んだのもつかの間、気が付いたら自分が面倒くさいオヤジになってた! 飲み方が少しは大人になったか? 変わらないんですよ、これが。57歳になっても酒の味なんて分からない。昔はね、早く酔いたいから日本酒。すぐに酔って、そこからが長いんです。 最初は飲み屋でもいつもの調子で話すからいいんですが、酔ってくるともう一人、「裏みうら」が出てくるんですよね。 こいつが本当に厄介(笑)。 まず自分と相手の意見の違いを無理やり見つけて議論を吹っかけようとしてね。 何十年も前の相手の失言だとか腹が立ったことをホジくり返して攻撃します。 6時間も7時間も同じ奴と飲んでいると、話なんてなくなるでしょう? 自分自身が面倒なオジサンになったけど、それでもなんだか居心地がいいし、ウダウダ飲んでいても皆がどこか許してくれる。それがこの街の優しさかな(笑)。 オムツをしてでもこの街で飲み続ける! ちょっと汚い話でごめんなさい。 先日、ゴールデン街で山田五郎と飲んでいて、トイレに行ったらウンコをちびってたんですよ(笑)。 それを話したら「それはもうダメだ、帰ろう」と。最近またひん尿には悩まされていたけど、まさか大までとは。 そう言えば以前、五十肩が辛いって話をしていたら、ある大先輩が「なにつまらないこと気にしてるんだ。俺なんかオムツをして飲んでるんだ!」って。 見たら本当にズボンがこんもりとしてた(笑)。 よし俺もいざとなったらオムツをして飲むぞと。そしたらひん尿でもウンチでもトイレに行く必要ないじゃない。 皆同じように年を取ってく。ゴールデン街のママもマスターも年取って行くでしょ。 お互い介護精神で、支え合って飲む、美しい時代がくるんじゃないかなって。 撮影/北村泰弘 協力/中村酒店 Profile
1958年 京都市出身。武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。イラストレーター、作家、ミュージシャンなどとして幅広い分野で活動。 1997年「マイブーム」で新語・流行語大賞受賞。 近著に「正しい保健体育ポケット版」(文集文庫)などがある。 |